彼は、股間の鈍い痛みで目を覚ました。何者かが、服の上から急所を踏んだらしい。
身をよじらせて苦しみから逃れたいが、四肢が動かない。どうやら縛られているようだ。
目の前は真っ暗で、目隠しをされていることはすぐ分かった。
そして口には布のようなものを押し込まれている。
彼は大事な急所を蹴られても、脂汗を浮かせて、呻くことしかできなかったのである。
一瞬彼はパニックに陥ったが、すぐに平静を取り戻した。
こういった経験は決して初めてではない。昔「合意の上で」行っていたプレイのことに思いを馳せる。
懐かしさと恐怖とが、彼の心を駆け巡った。
彼は今朝も、鏡を見てため息をついていた。
二十代も半ばに差し掛かったが、友人知人同僚の誰に比べても、若さと美貌は保っているつもりだ。
まだ肉付きも悪くない。美しく隆起した胸の筋肉は、かつて何人もの男を虜にし、貪られるにまかせていた。
一見細身で華奢な印象のある彼だが、脱ぐとほどよい筋肉質。そんな彼が今虜にしているのは、彼氏のみである。
決して嫌いではないのだが、どうしても長く一緒に居すぎると性欲が沸かなくなってしまうのが同性愛ゆえの悩みと言えよう。かつてSMサークルで複数の同世代の若者に肉体を陵辱されていたことを思い出すと、今でも肉体が疼き、性器が屹立してしまうのを抑え切れない。でも彼は特に彼氏に不満も言わず、つつましく二人きりの時間を過ごしていた。そして単調な仕事に疲れを覚えながらも、平凡で平和な日々が続くはずだった。
しかし、彼は今緊縛されている。四肢はベッドの柱に縄で縛り付けられているのであろう。
両手両足を開かされ、大の字だ。恥ずかしさより先に恐怖が襲いかかってくる。
家に帰る途中の雑踏で背中にチクリとした痛みを感じたところまでは覚えているのだが、その後の記憶は全く無い。
どうやら自分は拉致されて、緊縛されている。そのことは確実なようだが、まず相手の目的も分からないし、 男女すらもわからない。ただ、この縛り方は明らかに人質とするのを目的としているのではないことは明白だ。
強引に開かされた股にもう一発蹴りが入り、彼の目隠しから涙が一筋こぼれ落ちた。



