鈍い音が体育館に響き渡った。誠一のパンチと、孝志の蹴りがまともに「社長」に炸裂したのである。
ぐらりと揺れる「社長」。栄司が目を丸くする。「社長」の桁外れの強さは何度も目にしてきた。しかし目の前では、「社長」はサンドバッグ状態ではないか。孝志のローキックが「社長」の腿をえぐり、膝が落ちたところに誠一のアッパーが決まる。すばらしく息のあったコンビネーションだ。
「よし、ここで決めるぜ!」
二人は猛ラッシュをかけ、なすすべもなく「社長」は崩れ落ちた。
栄司の顔面が蒼白になり、二人の顔には安堵の色が広がる。ところが、その瞬間を待っていたかのように、ゆらりと「社長」が起き上がった。慌てて二人は間合いを取る。
「・・・スマンねえお兄さんたち、全然効いてないよ」
事も無げに「社長」が抜群の笑顔で言い放った。
たちまち二人の顔から血の気が引いた。追い詰められた獣がそうするように、無我夢中で「社長」に攻撃を浴びせる。
しかし今度は、一発も当たらない。すべて受けられ、捌かれ、まったく届かないのだ。
「不安・・・焦り・・・怒り・・・素晴らしい表情だ」
「社長」は相変わらず微笑を浮かべたままだ。
「絶望を存分に味わいたまえ」
「社長」が再びノーガードになる。
「ちっきしょおおおおおおおお!」
誠一が渾身の一撃を社長の顔面に放つ。しかし、あっさりと拳は掴まれた。と同時に、突然宙に舞う誠一。
頭から床に落ち、気絶する。なんという怪力なのか。その姿を見て「社長」を睨みつける孝志だが、顔面は蒼白だ。
「私がどれだけ遠くにいるかわかったろう」なんということ余裕だろうか。「社長」はいつでも二人を倒せたに違いない。ただ二人に絶望感を与えたいがために、彼は遊んでいたのである。
「あとは任せたよ、栄司君。今日はお土産がいっぱいあるから、いつものように動画に撮ってあとで送ってくれればそれでいい」
「社長」は瞬きする間に孝志の背後に回り、頚動脈を絞めた。遠くなる意識の中で、孝志は誠一のことを想う。
あと少しで助かったのに・・・ 誠一、ごめんよ、俺のせいで・・・
孝志は間もなく気を失った。
二人が同時に目を覚ますと、後ろ手に縛られて床に転がされているのがわかった。孝志は誠一の持ってきた上着を脱がされ、再び全裸になっている。そして二人の視界に入ったのは、震え上がるような光景であった。
傷だらけの不良たちが、血走った目で二人を取り囲んでいた。歯を折られたものや鼻を砕かれたものもいる。
全員が憎悪に満ちた目で二人を睨みつけていた。これから始まる凄惨な復讐に、二人は恐怖ですくみあがる。もう助けてくれる者は誰もいない。絶望が二人を覆いつくした。
「仲良しのお二人さん、これだけのことをやってくれたんだ。覚悟はできてるんだろうな」
栄司が勝ち誇った顔で言った。
「ちきしょう、ふざけやがって!」
それでも食って掛かる誠一。しかし、縛られた体では何もできない。
「よし、聞き分けのない子には親友と同じ目に会ってもらおうかな」
栄司が部下に目配せする。たちまち誠一は床に押さえ込まれた。
「やれ」
「うわっ、てめえどこに手を入れてやがんだ気色悪ィ、変態め・・・ぎゃああああ!」
誠一の四肢の自由を奪った不良たちは、誠一を玉揉みの刑に処していたのである。睾丸がもっとも苦痛を受けるのは、打撃よりもむしろ掴まれることだ。誠一のボクサーブリーフに手を突っ込んだ部下が誠一のふぐりを揉みしだく。
信じられないほどの痛みに、気の強い誠一がたちまち泣き顔になる。
「苦痛のあまり舌を噛みかねないからな」
栄司が誠一に猿轡をかませた。うめき声が体育館に響き渡る。子分が掴んだ睾丸をぐっと絞ると、誠一は白目を剥いて気絶した。