※この小説は二次創作であり、原作者・出版社とは一切関係ありません。
「あーよく寝た」
ここは凪の帯(カームベルト)の海中深くに造られた世界政府の大監獄「インペルダウン」。ただでさえ海中と言う能力者泣かせの場所にある上に、まるで迷路のような構造、強力な警備、監視用の電伝虫、海中には巨大海王類、会場には軍艦とまさに鉄壁の要塞である。かつて囚人の脱獄を許したのは、自身の足を切断して逃亡した「金獅子」と、二年前の頂上戦争の大脱獄、この二件のみである。
「おはよう、『三年 寝太郎』くん。相変わらず、寝起きの時間は正確だな」
ノックをして入ってきたのは、署長のハンニャバルである。
「おやハンニャバル副署長、おはようさん。マゼラン署長は相変わらず腹でも壊してんのか?」
ベッドの上で一伸びをし、のろのろとめんどくさそうに起き上がったのはこの部屋の主「三年 寝太郎」である。見た目は30代くらいであろうか。身長は二メートル強でこの世界としては小柄な方だが、並々ならぬ迫力が漂っている。
彼は三年寝て、一年起きているという特殊なサイクルで生活しているのでこう呼ばれている。本名は誰も知らず、彼を知る者は寝太郎と呼ぶ。
「今マゼランは副署長、今は私が署長だ」
「なんだと!?まさかワシはまだ夢から醒めてねえんじゃねえのか?マゼランが死んだってのならわかるんだが・・・なんかやらかして責任でも取ったってのか?まあ、ハンニャバルよおめでとさん!」
「ありがとう寝太郎君。私は慣例によって君にこの三年間に何があったのかを説明しに来たのだが、まずは二年前の大事件について報告するとしよう」ハンニャバルの表情は苦々しげだ。
「ふむ、お前さんの性格からすると署長になれてニッコニコしてそうなもんだが、よほどの事があったようだな。まあ、朝飯でも食いながら聞かせてもらうとするかな」寝太郎は寝室を出て、賓客用の監獄内最高級レストランへ向かった。
寝太郎の部屋は最下層にある、通常の職員は立ち入らない歴史から抹殺された凶悪な犯罪者が収監される「レベル6」にある。上部にあるレストランに行く途中、屈強な警備員どころか狂暴なマンティコアや覚醒したゾオン系の獄卒獣まで彼の前では姿勢を正した。よほどの実力者であるのだろうか。
「・・・なるほど、それでマゼラン、お前は大怪我をしたってわけか。お前さんが負けるなんて三年前じゃ考えられんかったがなあ」
「そうだ。本当に一生の不覚であった」今は副署長となった「ドクドクの実」の能力を有する前署長マゼランが俯いた。
「まあいいや、皆さんご存知の通り、ワシはめんどくさがり屋だからわざわざ政府のために動いたりはせんよ。だがもちろんワシのハントの対象となれば別だがね。主犯の『麦わらの一味』と『黒ひげ海賊団』の手配書を見せてみな」
寝太郎は手配書に目を通すと、「黒ひげの方は見るまでもなかったな・・・だが、『麦わらのルフィ』こいつは可愛い顔しとるし若いし、ワシの好みだ。めんどくさくはあるが、ひとつ寝起きの運動がてら、皆さんの恨みを晴らしてやらんでもない。懸賞金も、ここのワシの家賃としては十分だろう。まずは、こいつの能力について聞いとこうか」と舌なめずりをした。
「そいつは『悪魔の実』の能力者だ。『ゴムゴムの実』だからベースとしては強くは無いのだが、応用力があって覇王色の覇気も・・・」マゼランがまだ話し終わっていないのに、寝太郎は勢いよく立ち上がった。
「ゴ、ゴムゴムの実ィいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!ヒャッハー!」
「いや寝太郎、まだ話が終わって・・・」焦るマゼランとハンニャバル。だが寝太郎は耳を貸さない。
「善は急げだ!その『麦わらの一味』はどこに居るんだ!」
「今は『ワノ国』で百獣海賊団と戦争中だ。鎖国してるから中のことはよくわからんが、CP0が行っている」
「ちょうどいい、ワノ国はワシの故郷だ。ベガパンクと今の元帥に連絡取れるか?」
「・・・まさか寝太郎、あんた殴り込む気か」
「おおさ!カイドウ相手なら、グズグズしてると殺られちまうかもしれんだろ!」
「ビッグマムも参戦してるって話なのだが・・・」
「お前ら、そういやワシの実力を見る機会はほとんど無かったわな。ワシは『快適な睡眠と食事、そして囚人の中から選んだ美貌の生贄を好きなだけ凌辱していい代わりに、ここでおとなしくしておく』という約束を五老星と結んだ男だぞ。その理由を教えてやるとしよう!」
そう担架を切って、寝太郎は駆け出して行った。
看守のサディちゃんが呆気にとられた面持ちで寝太郎の後ろ姿を見送った。
「ん~♥あんなやる気に満ち溢れた寝太郎さん、私初めて観ましたわ・・・ただの変態拷問好きだと思ってましたけど」
「変態拷問好きの君が言うなら相当だな・・・まあ、世界最強の実力を持ちながら、やる気のない性格故に歴史の表舞台には絶対に姿を現さないと言われた男だ。なぜ今回は、あんなに『麦わら』に執心しているのかわからんなあ」ハンニャバルとマゼランが共に首をかしげる。
そして次の日の朝、「海軍がワノ国を急襲して、暴れていた大物海賊たちは散り散りになって敗走した」というニュースが世界を駆け巡り、事情を知るインペルダウンの幹部連中は凍り付いた。
(つづく)