廊下の突き当たりの一番奥の部屋の前に、人影があった。ナチスドイ
ツを彷彿させるきちっとした軍服を着てはいるが、顔の左半分に
仮面を付けているのが非常に不気味だ。ぎらりと光る金色のデスマス
クのような仮面。右半分の生身の方には、灰色の目がこれまた不気味
な光を放っている。
鬼腕が三十代半ばくらいなら、この男は五十はいっているだろうか。
しかし顔に皺は少なく、まだまだ精悍さを漂わせている。その男がゆ
っくりと口を開くと、歯が光った。総入れ歯の前歯は、すべからく金
属の牙だったのだ。
「五分遅刻だね」
男がやや眉をしかめる。
「わりいわりい、でも五分以上遅れたことはないだろ」
「でも、きっかり五分遅れる。よくわからない人だ」
「まあそうぶつぶつ言うなって。いつものことじゃねえか、老虎さん
よ」
老虎といわれたその男は、あきらかに白人であったが、これもまた通
り名なのだろう。腰に帯びた鞭と特殊警棒にこびりついた血が、彼が
血に飢えた虎に例えられている何よりの証かも知れない。
「こいつぁ下を仕切ってる俺の右腕だ。とりあえず紹介しよう」
鬼腕によると、彼は欧州某国の元軍人で、退役後は諜報機関に所
属していたそうだ。きちんと仕事をしていたが、人身売買の調査をす
る内に鬼腕に出会い、逮捕するかと思いきや意気投合。実は捜査中に
、傭兵時代に拷問を得意としていた彼の嗜虐の血が目覚めてしまった
のだ。その後鬼腕に誘われて組織を興す。傭兵だったときに作った人
脈とスパイのときの経験を生かした情報収集能力で、たちまち大組織
を作り上げた。組織には元傭兵や元CIAやKGB、FBIもいるという。
「けっこう調査中にビデオ見て、興奮して逮捕より寝返ったほうがい
いってやつも多いんだ。こいつもそうだがね。がはははは」
「ふん、否定はしないがね。まあ一般的に攻めの人間同士の結束は固
いからな」
このやりとりを聞いて陣も吹き出す。
「竜、私たちも似たようなものですよね」
「しかし、」
老虎が竜を睨む。
「こいつは誰なんだ?貴方がそこまでしゃべるところを見ると、それ
なりに信用できるのだろうね」
とつぶやいたと同時に、「ビュン!」腰の鞭がうなったかと思うと、
竜のGパンが一瞬でおろされた。なんだかよくわからないワザだが、
ただのコスプレおやじではないらしい。
「まあ君も裏切りには気をつけ・・・むっ!」
修羅場をくぐり抜けてきた彼が声を詰まらせる。
「わかったよ、鬼腕。彼は貴重だな。吾輩も戦場ではお目にかかった
ことがない」
肩をすくめる老虎であった。


