「先輩、待ってくださいよぅ。」
松本はぜぃぜぃ言いながら俺の後ろで波をかき分ける。
海で泳ぐのは初めてみたいだし、当然フンドシ締めて古式泳法で泳ぐのも初めてに決ま
ってる。
部活の新人歓迎水泳大会(?)は毎年こうやって新入生にちょいとばかり人生のキビシ
さを教えてやるために催されるわけだ。
「あのお・・・・」
心なしか遠くなった松本の声に振り返ると、ずいぶん後ろで立ち止まったまま半べそを
かいている。
「なにやってんだ、さっさと来い!もうみんな上がったぞ!!」
一応、先輩とゆーものが恐いってことをしっかり認識させなきゃいけないんで、わざと
強い調子で怒鳴る。
「・・・・・その・・・・」
ますます小声でますますうつむく松本。
仕方ないんで俺はざばざば大股で近付く。
「何がどうした!!はっきり言え!!」
「・・・・あの・・・フンドシ・・・緩んじゃって・・・・」
口の中でもごもご呟くように言われてふと視線を落すと、なるほど。
松本のフンドシはすっかり緩んで今にも外れそうだ。
どうにも一人では直せないようで、前の部分を押さえたまま流されないようにするのが
精一杯らしい。
「・・・・しょうがないな。」
俺は慣れた手つきでさっさと締め直してやり、また不機嫌を装って浜へと向かう。
「・・・・・・あのぉ・・・」
「今度は何だ!!」
大声にちょっとびっくりしながらも、松本はもじもじと小声で言った。
「ありがとうございました、先輩・・・。」
「いいから、さっさ来いって。」
俺はエラそうに背を向けたが、松本のちょっと紅くなった頬が嬉しくてニヤケそうにな
った。
今年はいいことありそうだ。




