青く晴れ渡った空。今日も世の中は、何事も無く動いていく。しかし誠一には、澄んだ空気にかすかな闇が入りこんでいるような気がしてしかたがなかった。
微かな不安が胸の中で徐々に大きくなり、手足の末端まで支配して、全身を澱みで覆い尽くす。
誠一の頭に親友の顔がよぎる。孝志が約束をすっぽかした事など、二人が出会ってからただの一度も無い。進学校の鼻つまみものである二人の仲は非常に良く、孤独なもの同士の友情は固かった。
孝志が誠一に黙って何かをすることなど考えられなかったのである。
「まさか、孝志の身に何か・・・」
誠一は唇を噛んだ。今まで二人は喧嘩に負けたことなど一度も無い。
色白で女顔の孝志と、小柄で華奢な誠一は小学生の頃からその容姿のせいでからかわれたり、舐められる経験が多々あった。そのギャップを跳ね返すべく二人は格闘技を真剣に学び、実戦経験を重ね、高校に入ってからは敵無しとなっていたのである。
日が暮れ、町が闇に包まれるなかで誠一は焦っていく。孝志の両親も誠一の両親も、息子が帰ってこなくても何の心配もしないだろう。しかし彼ら二人にとって、お互いは肉親以上の存在である。誠一の掌に汗がにじむ。
ふと目を凝らすと、宿敵S工業高校の生徒4人が歩いてくる。面倒が起こると厄介だ。誠一はこっそりと電柱の陰に身を隠す。
「おい、昨日の孝志のケツは最高だったなあ」
「やっぱ栄司さんは太っ腹だぜ。オレなんて二回も出しちまったもん。さて早く行かねえと、ゆるゆるになっちまったら困るからな」
会話の内容があんまりにもあんまりなものだったため、誠一は一瞬何が何だかわからなかった。
しかし、間違い無く耳に残ったのは「孝志」という名前である。頭が考えるより先に、誠一の体が動いていた。
「うぐっ!」
不良の一人が唐突に鼻を殴られ、大量の鼻血を出しながらうずくまった。
「な、なんだこいついきなり殴りやがった!」
「てめえどこの誰だ!」
慌てて戦闘態勢を整える不良達。
「お前ら、孝志をどうしたんだ!」
どちらかというと可愛らしい感じの誠一の顔が、一瞬にして鬼となった。
「(ど、どうする?知らねえって言って逃げるか?)」
「(馬鹿、こっちは4人だぞ!あとで栄司さんにばれたら何て言われるかわかったもんじゃねえ)」
「(よし、やるか!)」
「フフフ誠一、てめえのダチは俺たちが預かって可愛がってやってるぜ!今朝まで徹夜で犯られ続けて、今から二日目の地獄の始まりってわけだ。てめえも一緒に犯し尽くしてやる!」
いくら格闘技に精通してるとはいえ、四対一は多少厳しい。しかし友人を拉致された誠一にそんな事は関係無かった。
「くそ、こっちの拳固が全然あたらねえぞ、どうなってやがる!」
「こいつ、ちょこまかちょこまかしやが・・・・ぐはっ!」
誠一は小柄な体格をカバーすべく、ボクシングの軽快なフットワークと身のこなしを身に付けていた。
ひらりひらりと不良達の攻撃をかわし、人体の急所である肝臓にパンチを叩きこむ。たちまち4人は腹を押さえてのたうちまわった。
「オラてめえ、孝志はどこだ!言え!」
怒りに任せ、手下の顔面を蹴り上げる誠一。鼻の曲がった手下が哀れな声で許しを請う。
「ひい・・・すいません・・・孝志は今日、S工業高校の体育倉庫で・・・」
「よし、体育倉庫だな!待ってろ孝志!」
誠一は大急ぎで家に向かった。荒い息をつきながら、部屋で殴りこみの準備を整える。メリケンサック、木刀などを身につけながら、それらで一緒に戦ってきた孝志に思いを馳せる。あの気高い孝志が、野獣どもに…。孝志が今何をされているかを想像し、怒りに身を震わせる誠一。たった一人で、闇の中をS工業高校に駆けていくのであった。



