「阿部さん、まーだいたんスかー」
「ああ、もう帰るところなんだ。尾崎くんは?」
「俺はもうちょっとッス」
「お疲れ様。お先するね」
羨ましそうに見送る後輩、尾崎の視線を背中に受けながら、エレベーターに乗った。
思ってたより早く仕事が終わって、こんな時間に帰れるのが嬉しい。
とは言っても、家にまっすぐ帰って洗濯をしなければいけないのだが。
ここのところ残業続きだったし土日も出勤してたから、家の中は荒れ放題で洗濯物も溜まりっぱなしなのだ。
家に帰ってからの段取りを頭の中で整理しているうちに、エレベーターが一階に到着する。
一歩踏み出したところで、いきなり携帯が鳴った。
「・・・・・・誰だろ?」
電話番号は表示されていない。
こんな時間にかけてくるような相手がいないわけじゃないが、その人物は番号を非表示にはしないだろう。
僕は一瞬躊躇したが、仕事絡みのトラブル報告かもしれないと思い直し、電話に出た。
「もしもし・・・?」
奇妙な沈黙が流れる。
再び問い掛けるが、返答が無い。
「イタ電なら切るぞ」
僕がそう言ってボタンに手を掛けた瞬間、電子的に歪められた声が発せられる。
『ホモ野郎』
短い一言だったが、その言葉は僕の心臓を止めそうなほどに衝撃的だった。
「だ・・誰だ!?何を・・・」
『ホモ野郎。部長にハメられて、ケツ振りやがって』
何かの装置で変換されている声は、その主が誰なのか判別できない。
「何のことだ!お前、誰なんだ!」
『会議室の机に乗って、ケツにハメられてたろう。いい声でヨがってたよな』
「馬鹿馬鹿しい!いい加減にしろ!」
『部長のチンポの味はどうだった?トコロテンで射精する、変態ホモ野郎』
僕はその場に凍りついたまま動けなかった。
誰なのかは分からないが、こいつは僕の秘密を知っている。
『全社にFAXで流してやろうか。阿部郁生は男に掘らせて仕事を貰ってますってね』
携帯から出るノイズの多い笑い声が、ザラザラと耳障りな音で僕の耳に流れ込む。
顔は紅潮しているのに、背中が冷たい。
「・・・誤解だ・・・僕は・・・」
『ぶっ太いチンポでケツ穴塞がれて、ヒィヒィ鳴きながら射精してますとかさ』
喉が詰まって、うまく言葉にならない。
「仕事を取るとかではなくて・・・」
『なんだ。じゃあ、単にハメられ好きのホモ野郎ってわけだ』
返事が出来なかった。
誘ってきたのは部長の方だったが、僕も充分に楽しんだのだから。
『明日が楽しみだな。会社中がお前の噂で持ちきりになるだろうよ』
「やめてくれ・・っ・・・・頼むから・・・」
『ずいぶんと可愛らしい声、出すじゃないか。そんなカンジで部長を誘ったのか?』
「違う!そんなんじゃないんだっ・・・頼むからやめてくれ!」
『じゃあ、俺の言う通りにしろ』
これは絶対にヤバい状況だと思ったが、僕には選択権なんて無い。
例え証拠が無かったとしても、この噂を流されたら致命的だ。
「・・・分かった・・・どうすればいい?」
『エレベーターに乗って、地下に行け』
この下は半地下になっていて、そこが駐車場として使われていた。
「行って、どうすれば・・・」
『行ってから教えてやる』
僕は一階に止まったままになっていたエレベーターに乗り、地階を押した。
『変態に相応しい命令をしてやるよ』
冷たい鉄のドアが、僕と日常をゆっくりと切り離した。
さすがにこの時間ともなると、駐車場も空いている。
社用車と、まだ残業している人の車が数台、薄暗い蛍光灯に照らされて冷え冷えとそこにあった。
「駐車場に来た・・・これから何をすればいい?」
僕以外誰もいない空間に、僕の声と靴音が響く。
普段なら気にとめないような小さな音も、今は大きすぎるほどに響いて縮み上がった僕の心臓を鷲づかみにする。
『そうだな。じゃあまず、ズボンを脱げ』
「・・・・・!」
僕は絶句した。
今は僕しかいないが、いつ誰が来るかも分からないこんな場所でズボンを脱ぐなんて、あり得ない。
「人に見られるっ・・・嫌だ・・・っ」
『なら、ここまでだな。明日を楽しみにしてろ』
僕はどんな泣き言も通用しないのだと悟った。
「・・・脱ぐから・・・・っ」
声が情けないほどに震えている。
それ以上は何も言えなかった。
僕は二台並んで停まっていた車の間に逃げ込み、車の屋根に携帯を置いてズボンに手を掛ける。
もつれる指でベルトを外し、ファスナーを下ろす。
少しの間躊躇したけれど、諦めてズボンを脱いだ。
「ズボン、脱いだ・・・」
『いい子だ。じゃあ次は、下着だ』
「もう勘弁してくれ・・・っ」
『まだなんにもしてないだろ?さっさと脱げよ』
こんな姿を誰かに見られたら、とても言い訳できそうにない。
でも噂を撒かれたら、そんなことは比ではないほど最悪の状況になる。
僕はよりリスクの少ない方を選ぶしかないのだ。
誰も来ないことを祈りながら。
ボクサーパンツを脱ぎ、ズボンと一緒に隅に寄せた。
ワイシャツと革靴と靴下を身に付けたまま下半身を剥き出しにしている哀れな僕は、携帯を耳に押し当てたまましゃがみ込んで身を隠す。
「ぬ・・・脱いだ。もういいだろ!?」
『まーさか』
電話の主が機械音を伴って笑った。
『そこでオナニーしろ』
「嫌だっ・・・頼むから、勘弁してくれ・・・誰かに見られでもしたら・・・」
『会議室で男とセックスするくらいだ。本当は見られたいんだろ?』
「違う!あれは・・部長が・・・」
『お前も嫌がってなかっただろ。机に乗って大股広げたのは誰だっけ』
そうだ。
僕はあの時も下半身だけをはだけ、会議室の長い机の上に乗り・・・
『あのセックスを思い出しながらコくんだ。たっぷり雰囲気出してさ。部長はどんな風に可愛がってくれた?』
部長は僕のペニスを握り、裏筋に沿ってしごき上げ、
『チンポしごいてもらいながら、部長のを舐めてたよな』
ファスナーを下ろしただけの部長と69の姿勢になって、部長は舐めてはくれなかったが言葉で僕を辱めながら先端を重点的に苛めてくれて、
『そうだ。部長にしてもらったみたいに尿道に指を押し込んでコくんだ』
僕はあのセックスを思い出しながら自慰をする。
部長にしてもらったように鈴口に人差し指の腹をめり込ませ、痛いくらいに磨耗しては千切れるほどにしごき上げて。
『お次は大股開きで、お前の唾液でデロデロになったチンポをケツ穴に咥え込んでたっけ』
「ぁ・・・ぅ・・・・っ」
それは太くて、僕は体が真っ二つに裂けるのではないかと思うほどだったけれど、部長は
お構いなしに奥深くまで押し入って、
「・・・・は・・っ・・・ぁ・・・あ」
『お前のケツがぶっ壊れるほど、突き上げられてたな。それなのにお前はあんあん啼いてケツ振って、おまけに先走りをダラダラ噴出して』
尻をいっぱいに満たされ、内蔵が裏返るほど引き出されては押し込まれ、部長と僕の体に挟まれて揉まれる僕のペニスからも甘くて痺れる快感が噴出していて、
「あふっ・・うはぁ・・あぁ・・は・・っ」
『部長の首に抱きついて、もっともっとってせがんで』
尻を振ると、カリ太のペニスが僕の内側の性感帯を抉り、さらにカリにまとわりついた腸壁がよじれて僕をより深い悦びに駆り立てて、
『いくら休日出勤だからって、あんなデカい声で啼きながら』
「ああぁ・・っ・・・・はふっ・・はっ・・・あっ、あっ!」
『淫乱のケツマン野郎とか罵られながら、ガツンガツンに掘られて』
部長は僕を抱いている間じゅう、掘られて我慢汁を噴き出す変態とか、ケツで感じるホモ野郎とか、俺のチンポに突き上げられてイっちまえとか、とにかく僕を言葉で責め続けて、
『どこが一番感じた。ぶらぶらになったまんまのチンポか?限界まで広げられて充血したケツ穴か?』
「はぁ・・・ケ・・ツ・・・っ・・・うぁあっ・・・あふっ」
『ちゃんと言えよ。男に組み敷かれてエロダンス踊る、ド変態が』
「・・・ケツマン・・っ・・・感じ・・・」
『そうだよなあ。尻を掻き回されてイったんだもんなあ』
あぁ・・・気持ちイイ・・・
二人の男に犯され、言葉責めにされてるみたいだ・・・
「あ・・・も・・ぅ・・・・イ・・・・っ」
『もうフィニッシュか?使ったことも無いお粗末な道具は、こらえ性も無いんだな』
僕のペニス、僕たちの陰毛の間で揉みくちゃにされてて・・・
「イく・・・イっちゃうよ・・っ・・・んぅっ・・ふっふっ・・ふぅっ」
部長、お願いです。もっと酷くしてください・・・!
『イけよ、変態。そのみっともない格好で大股広げて射精しろ』
「ぁ・・・あぁぁああああーーーっ!」
僕は携帯を投げ出し、夢中でペニスをしごいた。
目の前が白むほどの激しい奔流が僕の下半身から噴き上がり、筒先から勢い良く迸る。
僕は会社の駐車場で半裸になり、オナニーをして果てたのだ。
頭の芯が痺れ、唾液が糸のような細い流れになって零れる。
ものすごい快感だった。
『おい、聞いてるのか!おい!』
「あぁ・・・聞いてる・・・」
『お前は本物の変態だな。デカい声、出しやがって』
「車内まで聞こえたか?」
相手が絶句し、駐車場に静けさが戻る。
「車から降りろよ、尾崎くん」
『なに言ってやがる!俺は・・・』
「いいんだ、分かってる。二機のエレベーターとも地階に停まってる。僕を一階に足止めしてる間に下りたんだろう?それに・・・」
あの日も僕は、一足先に帰ると言う尾崎に会っていた。
バタンとドアが開き、はるか向こう側のスペースに停まっていた社用車から尾崎が降りる。
彼はそのまま彫刻のように動かない。
僕はゆっくり立ち上がり、携帯に向かって囁いた。
「ケツが疼くんです・・・僕に入れてよ」
尾崎がごくりと唾を飲む音が、コンクリートの壁に響いた。




